万能薬「高麗人参」

高麗人参は、日本では朝鮮人参や薬用人参、オタネニンジンなどと呼ばれることもある、ウコギ科の多年生植物です。原産地は、主に中国北東部や朝鮮半島の山間部、シベリアの山中などで、朝鮮半島に栄えた国・高句麗にちなんで「高麗人参」と呼ばれるようになりました。

学術名は「パナックスジンセン・C・Aメーヤー」ですが、パナックスは「何にでもよく効く」という意味で、高麗人参の万能性を示しています。

高麗人参

時代劇などでは、庶民には手の届かない高級品という描写をよく見かけますが、現代でも高価なものなら実際に1本で数十万円という価格で取引される貴重品。一般的には、「根」が人の身体の形に似たものほど珍重され、高価となります。

また、北米の「アメリカ人参(西洋人参)」、日本の「竹節人参」、中国の「田七人参」などは、高麗人参と同じパナックス属の植物ですが、種類や形態が異なり、薬効にもハッキリとした差があります。

生の高麗人参の模式図

高麗人参の全体図

花と実

花は3年目から咲き、毎年5月の中頃以降に開花、採種は4年目から行ないます。

葉柄

葉柄は1年に1つずつ増え、通常4年目で4つ、6年目で6つになります。

根っこ

根っこは、人型に似て、主に脳頭(地下茎)・胴体(主根)・足(支根)・尾(ひげ根・細根)の4つの部位に分けられます。

加工法による違い

水参(すいさん)

水参

畑から収穫したままの状態で、生の高麗人参です。水参は、全ての人参加工品の原料になりますが、そのままだと主に料理やお酒、お茶などに使用されます。

漢方素材以外としては、サムゲタンや天ぷらなどで使用されるのも、この水参。すりおろしたり、生のままで食べることもできます。

水分量を80%近く含んでいるため、保存がしにくく、痛みやすいのが難点です。

白参(はくさん)

白参

水参から加工し、含まれる水分量が12%以下になるように、太陽熱か熱風で乾燥させたものを、白参と呼びます。

白参に加工される高麗人参は、4年根と呼ばれ、土の中で4年間育てたものを使うことがほとんど。

主な用途は、漢方薬やお茶です。水分量が少ないため、水参よりは保存がききますが、長期保存はできません。

紅参(べにさん)

紅参

紅参は、水参の皮をはがさずに蒸気で蒸した後、水分量が14%以下になるように自然乾燥させたもの。

日本では「こうじん」、「あかにんじん」、「あかさん」などとも呼ばれています。赤褐色で堅くになるまで乾燥させる加工過程で、有用成分ジンセノサイド(別名・人参サポニン)の含有量が大幅に増えるため、水参や白参以上に薬効が強く、高麗人参の中でも特に希少で上級品とされています。こちらも主な用途は白参と同じく、漢方薬やお茶です。

他にも、蒸し工程を9度、黒色になるまで繰り返した「黒参」などがあります。

二千年以上も珍重されてきた漢方の霊薬

神農本草経

▲「神農本草経」では、上品の中でも代表格として紹介。

二千年以上の前に残された、中国最古の薬物書「神農本草経」でも紹介されているほど、長い歴史を持つ高麗人参。

数ある漢方素材の中でも、とりわけ希少価値が高く、時の皇帝たちが多くの人手を割いて山中を探させたとされ、王侯貴族しか入手できない時代もあったほど。

大航海時代には、高麗人参はアジア圏を飛び出し、フランスの思想家ルソーや、ロシアの文豪ゴーリキーをはじめ、世界中の偉人たちが愛用していたといわれています。

日本では、かの徳川家康をはじめ、「水戸黄門」として知られる徳川光圀、近年ドラマで知名度を上げた希代の天才軍師、黒田官兵衛も高麗人参を愛用していたといいます。

徳川 家康

徳川家康
江戸幕府を立ち上げた初代征夷大将軍にして、「健康マニア」という側面も持っていた徳川家康。73歳という、当時としては異常なほどの長寿で知られる彼も、高麗人参を愛用していたといわれています。

徳川 光圀

徳川光圀
映画や時代劇などで幾度となく取り上げられ、説明不要の「水戸黄門」徳川光圀も、高麗人参を飲んでいたといわれる一人。高麗人参の国内栽培に着手するも、失敗した話で有名。

徳川 吉宗

徳川吉宗
時代劇でもお馴染みの8代将軍 徳川吉宗は、享保の改革で知られ、歴代将軍の中でもとりわけ知名度が高い一人。高麗人参の国内栽培を奨励し、認知度アップに貢献しました。

高麗人参は、数ある生薬・健康食材の中で唯一不老長寿のお薬として、長きにわたって珍重されてきました。そして現代では、年に数百もの実験データが学会などで報告され、古くから神秘のベールに包まれていた様々な高麗人参の効果効能が、現代科学の力によって解明され始めています。

人参七効説

高麗人参には、古くから七種類の薬効があると言い伝えられています。

補気救脱(ほききゅうだつ)

元気を補い、虚脱を救い、疲労回復、体力増強の効能を持つ。

益血復脈(えっけつふくみゃく)

血液を作り、脈の乱れを正常に戻し、貧血、低血圧、心臓機能低下を改善する。

養心安神(ようじんあんしん)

心を養い、精神を安んじ、ノイローゼ、自律神経失調を治す。

生津止渇(せいしんしかつ)

体内の水液を増し、喉の渇きを止め、カサカサの肌を潤して、糖尿病などを改善する。

補肺定喘(ほはいていぜん)

肺の力を補い、咳を止め痰を切る作用を持ち、喘息を鎮め、結核治療に役立つ。

健脾止瀉(けんぴししゃ)

胃腸を健やかにして、下痢を止め、食欲不振、胃・十二指腸潰瘍、便秘の改善を促す。

托毒合蒼(たくどくがっそう)

体内の毒素を除去し、傷の治りを促進。皮膚炎、化膿性腫瘍、肌荒れを治療する。

現在では、これらの薬効のほとんどが、高麗人参を用いた臨床試験で確認され、そのメカニズムも解明されつつあります。

高麗人参に含まれる有用成分

高麗人参に含まれるサポニンは、「ジンセノサイド」と呼ばれています。これは、ジンセン(高麗人参)とグリコシド(配糖体)の合成語で、高麗人参に含まれる配糖体という意味です。ジンセノサイドには毒性がなく、習慣性もないため、安心して長期間摂取できるのが特徴。ジンセノサイドは40種類以上もあり、それらが複合的に作用することで幅広い薬効が生まれます。

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